- 2026/02/27(金)
- 農業を志す方々へ ー棚澤 美由紀さん
農業に関係ない経験が役に立つ
株式会社Marche de Miyuki 棚澤 美由紀(たなざわ みゆき)さん
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埼玉県熊谷市で2013年にパートナーと就農をされた棚澤さん。
2017年に法人化し、翌年に加工部門で法人を立ち上げられました。
現在は生産のお手伝いをしながら、加工・販売に力を注がれています。
埼玉県にて農業界で活躍する女性にお話を伺うシリーズ 第四弾!
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Q.就農されたきっかけや経緯について教えてください
2013年にパートナーと農業を始め、2017年に法人化(株式会社WHATEVER)し、翌2018年にピクルス加工販売の会社、株式会社Marche de Miyukiを設立しました。
今日に至るまで様々なことを経験しましたので、順々にお話させていただきますね。
私は埼玉県熊谷市で生まれ、実家は建設業を営んでいました。私自身、短大卒業後はCADオペレーターや法令図書の渉外業務など、農業とは無縁の仕事を20年ほど経験しました。
転機は30歳の頃。「いつか喫茶店をやりたい」という小さい頃からの夢を実現できたらいいな、という思いから調理師免許を取得したんです。それがきっかけとなり、4年後の2003年にパートナーと焼きとん居酒屋を開店しました。とはいえ、当時は会社員をまだ辞めてはいなく、昼は会社勤め、夜にお店を手伝うというハードな日々を送っていました。
ありがたいことにお店の評判は上々で、2店舗、3店舗と出店を増やすことに。3店舗目を出したタイミングで勤めていた会社を退職しました。2007年のことです。当時は、飲食以外にもリフォームなどの建設に関する仕事もしていて、本当にフル回転でした。
しかし、順風満帆に見えた矢先、ある日のランチタイムが終わったタイミングで、パートナーが突然くも膜下出血で倒れてしまったんです。奇跡的に回復しましたが、身体の無理ができないこともあり、お店を2店舗に減らしました。人生、何が起こるか本当にわからないものですね。
私自身はいろいろなことにチャレンジしよう、という気持ちは変わっていなく、翌年、熊谷市内の飲食店の仲間たちの情報を載せる、地域密着型フリーペーパーを創刊しました。それ以外にも熊谷の観光地や四季折々のイベント・飲食店を載せた町歩きマップの小冊子を作りました。
本当にいろいろなことにチャレンジされていますね!
やりたいって思ったらやっちゃうんですよね(笑)。
フリーペーパーを作るために、書店で「一週間で学べるイラストレーター」の本を買って独学で習得しました。今では自社商品のラベルやポスターも全部自分で作ります。外注すると著作権の問題で融通が利かなくなることもありますが、自分でできればコスト削減にもなるし、ちょっとした変更もすぐできる。このスキルは、今では経営の大きな武器になっています。
2011年には、熊谷アンテナショップ「マルシェ ド熊谷 富士見」の運営を開始しました。ここでは、熊谷で作っているお菓子や小物の他、オリジナル商品も扱っていました。熊谷は小麦が特産品なんですが、地粉を使ってうどん・やきそば・素麺・ラーメンを製麺屋さんに作ってもらって商品にしたんです。
アンテナショップ運営の中で、野菜も扱いたいと思い、妻沼地区の農業青年会議の若いメンバーと出会ったことが、私たちと農との関わりのスタートです。農家の人たちからアンテナショップと飲食店で扱う野菜の仕入れをする中で、次第に地域の農家さんたちとの関係が作られていきました。そんな中、料理の飾りとして使えるような見栄えの良い野菜を扱いたいという声があり、地域の農家さんの中で探したのですが、なかなか見つからずに困っていたところ、「自分で作ってみれば!」と畑を貸してくれるという話があり、それならば、やってみよう!と、自分たちで作ることにしたんです。
それからしばらくして、私たちが「農業を始めた」・「飲食店を辞めるらしい」という噂話が熊谷市内を独り歩きしたようで・・(笑)。ある日、「お店を売ってほしい」という声がかかりました。私たちは、それまでお店を辞めて農業で生きていくとは全く考えていなかったのですが、考えてみればパートナーは病気をしたし、この年齢で夜中まで飲食店を営業していくのってどうなんだろう?と思うようになりました。また、純粋にお店を辞めるのではなく、「買って」くれるという良い話でもありましたので、これは逆にチャンスなんじゃないかと思い、「前に進んでみよう!」と決意し、2013年に専業農家へとシフトしたんです。
飲食の仲間にも、農業?と驚かれましたね。でも私たちは建築関係もできるし、フリーペーパーも作るし‥「何でもやって稼ごう」っていう精神が昔からあったので、転職するような気持ちでした。
Q.農業の知識や技術はどうやって学ばれたんですか?
青年会議の一部メンバーや、そのお父さん達が畑を見に来て、少しずつ教えてくれたんです。また、ネットでも調べましたね。
学校で農業を学ぶことも良いことだと思いますが、農業はそれぞれの地域の特性ややり方を考慮することが大切だと思いますので、その土地のやり方を地元の農家さんなどから教えてもらうことが大事だと思いますね。
私たちは初め、この地域の生産者が作っていない作物は少量でも取引してもらえるだろう、と考えて、多品目の西洋野菜などを作っていました。でも実際は、ある程度の量を生産できないと、売り先も拡がっていかないんですよね。
農業を始めて、たいして儲からない私たちに対して、昔からやっている農家さんはすごい儲かっていて…そこの違いって何だろう?と比較すると、「専門」で生産しているか否かという違いでした。多品目栽培の場合は、品目によって必要な資材が異なるため、その分、コストもかかる。そして、産地として確立されている作物は、市場で良い値段で取引される。
そんなことがわかってきて、私たちもこの土地に適した作物としてネギの生産を増やしていきました。ネギの中でも最初は西洋ネギを作っていましたが、家庭用としてはほとんど売れず、売れるのは飲食店だけだったんですよね。この土地で農業をやるのに、普通の長ネギを作らないでどうするの!という周囲からの声もあり、最終的には普通の長ネギに変更しました。少し遠回りでしたが、今となっては良い経験をしましたね。
Q.「ピクルス」の加工販売はどのタイミングで始められたんですか?
ピクルスの加工は、アンテナショップで野菜を扱い始めたタイミングにスタートしました。農家さんから野菜を仕入れていると、サイズが小さかったり葉っぱの色が悪くなったりで売れない規格外の野菜がどうしても出てきてしまうんです。それがもったいないので、ピクルスを作ることにしたんです。
はじめは月1回のイベントでの販売でしたが、結構評判が良かったので商談会にも出るようになり、それがきっかけとなって本格的な加工販売をスタートさせました。その後、2017年に近隣にある「道の駅はなぞの」がオープンするタイミングで、見栄えがいいピクルスを販売したいというお声がけをいただきまして、販売を開始したんです。この、道の駅で販売させてもらえたことは大きなポイントでした。
ありがたいことに注文が増え、私自身、生産と加工を両方やっていくのは体力面で厳しくなり、生産部門はパートナーとパートさん、加工部門は私、と部門を分けることにしました。会社の売り上げを伸ばすために、売れるものに力を注ぐのは経営者として大事だと思ったからです。とはいえ、加工作業は私一人で手作業でやっていますので、商品数を増やすよりも、ピクルスをグレードアップしていくことに注力しています。
実は包装もどんどんリニューアルしています。最近でいうと、容器の瓶です。額縁の中に絵を描いているイメージを意識して、瓶の形を円柱から四角に変更しました。この見せ方が功を奏し、今では美術館や博物館のショップからもお声がけをいただくようになりました。また、地元の発芽大豆(豆)と柴漬け(柴)をかけた「豆柴ピクルス」のように、遊び心のある商品開発も大切にしています。
こうした見せ方や売り方はこれまでの経験が大いに役立っていると感じていますね。飲食店を営業していたときは、ちょうど女子飲みが流行っている頃で、まずは見た目で美味しそうと思ってもらえるような工夫をしました。そんな経験が大いに活かされています。商談会でもディスプレイの仕方にとことんこだわることで、こちらから売り込まなくても、たくさんお声がけいただけます。
Q.農業のやりがい・面白さってどんなことを感じてますか?
皆さん、食育とか壮大なやりがいを感じられているのですが、私にとって農業は「生活のための職業」の一つです。
私が農業を選んだ根底には「最終的に一番強いのは食を持っている人だ」という確信があります。人間の生活基盤の3要素「衣・食・住」の中でも特に必要なのは食なんじゃないかと思っています。どんなにお金持ちでも、食べ物がなければ生きていけません。最後に残るのは農家。そう考えると、これほど誇らしく強い仕事はないと思うんです。
これまで会社員、飲食店、サービス業、農業それぞれ経験して、苦労の種類は違いますが、どの仕事でも辛いことがあるのを知っているので、特別農業が大変だとは思っていません。儲からないなら、空いた時間で別の仕事をして凌げばいい。経営者である以上、手段を選ばず稼ぎ抜く覚悟が重要だと思います。
Q.農業において、女性であることが活きたことって何かありましたか?
消費者目線でいられることですかね。
例えば、直売所で野菜を販売したときは、ポップで食べ方などの説明を入れるようにしていました。どう料理したらいいかが分からないと手に取ってもらえないので、珍しい野菜は特に必要ですよね。また、小さくて売れないと思われる野菜でも、お弁当に入れるにはちょうどいいサイズ!と思って販売してました。これだったらこう使えるなっていう日常生活での発想が活きますね。
逆に、自分だったら買わないものは販売もしません。最近はB品の詰め合わせが増えていますが、実際にお客さんがスーパーで買うのって、綺麗なもの・少しでも多いものですよね。専業農家になったのなら、B品を集めて袋詰めして売る努力よりも、まずはA品をしっかり作る努力をした方がいいかなと思います。
私の商品のターゲット層は、女性全般です。女性は、可愛いもの・きれいなもの・美味しいものに対して敏感なので、「可愛い!しかも美味しい!」と評価していただけることにこだわっています。また、自分は食べないけど、誰かにあげたいという感覚もある方が多いので、その感覚に刺さることを意識しています。
Q.最後に、これから農業を始めていきたいと思っている方へのメッセージをお願いします
これから農業を始める方に伝えたいのは、「最初から大きくしすぎないこと」です。補助金をもらっても辞めてしまう人が多いのは、収入がないうちに高価な機械を買い揃え、借金に追われてしまうからではないでしょうか。私たちは鍬一本と手押し耕運機から始め、お金に余裕ができたら1個買う…を繰り返してここまで来ました。
また、生産することだけでなく、経営感覚を持つことや周りを見ることも大事です、とお伝えしたいです。
以前、お店で仕入れる立場だった時に無農薬野菜を生産している農家さんから「何を作ったらいいかわからない、教えてください」って言われたことがありました。生産だけをしていると、お客さんが何を求めているかがわからなくなっちゃうんですよね。
農業に関係ないこれまでの人生経験すべてが、いつか必ずあなたを助ける武器になります。どうか「悪い人」に騙されず(笑)、着実に自分の城を築いていってください。
◎埼玉県で私も就農したい!
そんなあなたへ
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